みどりの食料システムEXPOロゴ

九州開催

会期2023年1024日(火)~25日(水)10:00~16:00

会場マリンメッセ福岡B館 MAP

東京開催

会期2024年35日(火)~8日(金)10:00~17:00

会場東京ビッグサイト MAP

大山利男准教授が語る日本農業の未来

農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」から3年が経過し、日本農業に変化の兆しが見え始めています。この戦略は、持続可能な農業を目指すために重要な取り組みであり、大山利男准教授へのインタビューを通じて、日本農業の変化と、未来に向けて、私たちが取り組むべき事をお聞きしました。

みどりの食料システム戦略は、農林水産省が持続可能な日本農業を目指して策定した戦略です。気候変動や自然災害への対応、生物多様性の保全、ESG(環境・社会・企業統治)といった社会的要請も踏まえ、持続的・安定的な食料供給に向けた指針をまとめています。農業全体の「みどり化」「低農薬化」を目指すものと言えますが、具体的には、以下のような目標を掲げています:
• 化学農薬の使用量を50%削減(環境や生物へのリスク換算)
• 化学肥料の使用量を30%減らす
• 有機農業の面積を0.5%から25%(100万ヘクタール)に拡大する

有機農業の目標設定はもっとも注目されましたが、現時点の取組面積は少なく、今後、大幅に拡大するためには、生産側の努力にくわえて、流通システムの変革、関連産業全体の取り組みが欠かせません。

有機農業の普及と転換事例
現在、有機農業に取り組んでいない農業者が断然多いわけですが、その彼らが今後どれだけ有機に転換するかは大きな鍵と言えます。何と言っても農地をはじめ経営資源を持っていますから、あとは、その道筋が見えるかどうかが重要です。参考事例として、北海道安平町や旭川周辺、十勝エリアの経営事例、山間部では高知県馬路村の有機ゆず栽培の地域事例はたいへん興味深いと言えます。
農林水産省は、オーガニックヴィレッジ宣言の市町村を2025年までに100市町村、2030年までに200市町村の創出を目標に事業を開始しましたが、すでに93市町村が手を上げており(2023年時点)予想を超える勢いがあります。
農林水産省が旗を振った効果は大きく、多くの自治体が有機農業に関心を示しさまざまな動きが始まっています。

国際的視点からの分析
日本は高温多湿で有機農業に適さないと言われてきましたが、必ずしもそうとは言えません。日本よりも高温多湿の東南アジア諸国や、冬が長い寒冷の北欧諸国等でも有機農業は行われています。
また、有機農業は一般に高コストだと言われていますが、その一方で、低投入の生産技術により、購入資材を徹底的に抑えて所得を向上させる例もあります。わかりにくいかもしれませんが、土地生産性を下げても労働生産性を上がることができれば所得は十分確保できるのです。
また、はじめから低い収量を想定した経営であれば、災害による減収の影響は相対的に小さいので、レジリエントな経営ということになります。このような有機農業に対する考え方は、ある意味で日本国内の常識とはかなり違います。絶対的な正解はありませんが、ときに発想の転換は必要です。

消費者行動の変化と産消提携
日本の有機農業の歴史は1970年代から始まりました。生産者と消費者の直接的な取り組みは産消提携とよばれ、その発展を支えてきました。
でも、すでに一世代以上の時間が経過しており、消費者世帯の家族構成や購買・消費行動も多様化しています。また、加工食品や畜産物は専門事業者によって供給されていますので、生産と消費のあいだのフードチェーン、有機食品のためのフードシステムの構築が不可欠です。
流通等の合理化とともに、生産物の価値を認めそれを高めるバリューチェーンであることがのぞまれます。流通業者だけでなく、さまざまな関連事業者の参入により有機食品市場は厚みを増すと考えられます。

有機食品の普及と展示会への要望
有機食品は、実際にそれほど売れていない,国内の有機食品シェアは非常に小さいという見方があり、客観的に見てその通りかもしれません。
ただ、見方を変えると、首都圏の人口を2,000万人とすれば、その1%で20万人、0.1%でも2万人の消費者が有機食品を求めていることになります。首都圏以外も含めると、そのボリュームは決して小さいとは言えません。課題は、生産と消費がうまく結びついていないのではないかということです。
2022年の農林水産省調査によれば、週に1回以上有機食品を利用する消費者は32.6%に達しています。ライトユーザーが多いと考えられますが、少なくとも国内の有機農産物、加工食品等の供給と、有機食品を求める消費者がうまく結びついていないように見えます。ですから、そこをつなげていくマーケティング、フードシステムの構築が求められていると思われます。
また、食品市場において、一般に加工食品は生鮮野菜よりも金額ベースで大きな部分を占めていますが、それは有機食品市場においてもあてはまります。有機食品市場が広がる上で、有機加工食品の充実が欠かせないのです。そして、そのためには、加工原材料用の野菜や穀物の国内供給がより求められているのです。これらは土地利用型の生産部門ですから、持続可能な農業の普及発展により大きく貢献する部門ということです。
現在、生鮮野菜を中心とした有機農業から、加工用野菜や畜産物を含めた有機農業、有機食品市場が発展する転換点にあるのだと思います。

立教大学
経済学部経済政策学科 大学院ビジネスデザイン研究科
准教授 大山 利男氏
農業経済学と社会・開発農学の分野で研究を行っており、特に有機農業、食品安全、自然共生型農業などのトピックに精通、海外の農業についても幅広い視点から研究。

<著書>
有機食品市場の構造分析:日本と欧米の現状を探る
大山利男, 酒井 徹, 谷口葉子, 李 哉泫, 横田茂永
農山漁村文化協会 2022年2月
https://researchmap.jp/read0150395?lang=ja

記事:石川史子 写真:山根正允