日本の農業が直面している課題は多岐にわたります。少子化や高齢化、労働力不足による生産者の減少が進み、将来的には農業従事者数が現在の1/5*1まで減少すると予測されています。
こうした厳しい状況の中、東京大学大学院 情報理工学系研究科の深尾隆則教授が提案する人工知能技術による収穫作業自動化等の新技術に注目が集まっています。
農業の魅力と根本的な課題解決へのアプローチ
農業は、ただ食べ物を生産する産業ではなく、地域を支え、時間的・心的な豊かさを提供する独特の魅力を持っている仕事です。上手に農業経営をしている地域の人たちは幸せ感があります。しかし同時に、複雑な生産工程や人材不足、資材高騰による経営の課題も抱えています。 深尾教授は、農業の魅力を損なうことなく、次世代の技術を活用して課題を解決するための道筋を示し、さらにその地域全体の経済を考え、国の研究機関、他大学、メーカー等と協力しながら、課題解決に取り組んでいます。
深尾先生の提案しているロボット技術は生産者の経営規模や作物、地理的条件に応じ、低コストで効果的な方法を提示することに重点を置いています。株間の除草など、まだロボットでは難しい作業もありますが、全てをロボットに頼るのではなく、「できることから順番に自動化する」という柔軟な姿勢を貫いていて、北海道から、四国、九州まで、日本全国で様々な農産物生産の自動化に取り組まれています。
多岐にわたるロボット技術の実用化事例
深尾教授が関与するプロジェクトの中で、以下のような自動化技術が実証実験されています。
これらの技術は、労働負荷の軽減と収入の安定化を目指して設計されており、近い将来、新規就農者を増やすための基盤になるでしょう。現在、大学の農学系学部では女性の比率が上がっています。力のある男性だけではなく、自動化やA Iによる収穫時期の見極めで女性や高齢者、転職でも働きやすい環境を整えることで、働き手を増やすことができ、持続可能な農業生産ができるようになるのです。
地域連携による未来の農業モデル
深尾教授が特に重視しているのが、地域や若者との連携です。地域ごとの特性を活かしながら新しい農業モデルを構築することで、新しい技術に対しても柔軟な対応が可能なコミュニティを生み出そうとしています。
例えば、北海道鹿追町のキャベツの自動収穫技術や、軽トラックの自動運転技術は地域の生産性向上に直結する事例です。
また、ヤマハ発動機やデンソーなどとの共同研究によるAI活用型の収穫適期判断や作業ロボットは、現場作業の効率性を上げ少人数での農業が可能になります。
さらに、人間の手と同じような動きができるロボットができれば、様々な作業を人に代わって、ロボットが担えるようになるのです。深尾教授は、今後は人工知能・計測・制御・機械・農学の融合が必要であるとしていて、これまで農業とは関係が無いと思われていた分野のエンジニアを巻き込もうとしています。
持続可能な農業の未来へ
これからの日本の農業は、ロボット技術と地域農業が一体となることで、技能実習生や臨時雇用をしなくても経営が成立するようになり、労働負荷減と収入増による新規就農者を確保できます。深尾教授が示す「コストバランスを考慮した自動化の推進」は、その具体的な指針となり、日本全国で展開されていきます。
ロボット技術を通じて、日本の農業は持続可能な未来を切り拓く力を持っています。そして日本で開発された自動車産業やロボットの新技術は、アジアモンスーン地域で共有できる基盤農業技術となり、日本がこの分野でリーダーシップを発揮できるでしょう。
*1 基幹的農業従事者は今後20年で 1/5まで減少すると言われています.
農林水産省資料より、以下p.11など
https://www.maff.go.jp/j/study/attach/pdf/nouti_housei-1.pdf
アグロ・イノベーション/みどりの食料システムEXPO トップカンファレンスセミナーが行われますので、ぜひご来場ください。
3月13日(木)11:00~11:40
会 場:会議棟 101会議室
農作業の自動化・ロボット化により何を目指すのか
東京大学 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授 深尾 隆則
https://agri-food.jma.or.jp/tokyo/attend/seminar.php