発信すれば、倍以上の情報と人が来る
松本純子さん(通称まつじゅん)は、農林水産省で広報の仕事をしています。
農林水産省が発行しているWebマガジン「aff」を担当し、フードアナリストとして、新聞、雑誌にコラムを連載。さらに、地方自治体などで食を通じた地域活性について講演をするなど幅広く情報を発信しています。ごはんソムリエ、もちマイスターの肩書きもある食のスペシャリストでもあります
週末は料理家・作家として著名な夫の樋口直哉さんと一緒に日本各地を巡り、作り手の声に耳を傾けながらおいしいものを探求。その魅力を、個人のSNSやウェブ記事、新聞連載などを通じて発信することをライフワークとしています。
写真:BUZZ MAFFのスタジオをご案内
写真:松本さんの職場入口表札
松本さんは農林水産省の公式YouTubeチャンネル『BUZZ MAFF(ばずまふ)』の仕掛け人としても有名です。
2019年、江藤拓農相(当時)のアイデアが発端となってスタートしたプロジェクトで2020年にYouTubeチャンネルを開設しました。一般的な省庁のYouTubeは大臣会見をそのまま配信していますが、全く異なり、官僚自身で農畜産物や漁業の魅力を視聴者、消費者に伝えようと努力している姿勢が伝わってきます。
BUZZ MAFFが広く世に知られたのは2020年3月に新型コロナウイルス対策の影響で需要が低下した花の消費拡大を図る施策のPR動画がきっかけでした。たった1分10秒の動画で、官僚らしく真面目に説明しているのに、思わずクスッと笑ってしまう内容で、多くの人が花を買う気持ちになりました。
現在、チャンネル登録者は現在17万人で、一番多く観られている動画は178万回再生に達しています。
https://www.youtube.com/watch?v=Mlky1vJI0EY
写真:BUZZ MAFF 2020年3月 九州農政局
BUZZ MAFF の趣旨は「日本の農林水産業の魅力を、職員の個性やスキルを活かして発信すること」で、その枠組みの中であれば、何をやっても良いというルール。著作権の確認を広報室でチェックする以外は、中間管理職による決裁は事実上省略されているというから驚きです。
とはいえ、広告代理店無しで、自分達で動画制作をしなければなりません。そこで、各職場から上がってくるコメントに下記のように丁寧に対応しました。最初は戸惑いを隠せなかった官僚たちが、徐々に自分達もやってみようと動き出したそうです。 とはいえ、広告代理店無しで、自分達で動画制作をしなければなりません。そこで、各職場から上がってくるコメントに下記のように丁寧に対応しました。最初はやる気の無かった官僚たちが、徐々に自分達もやってみようと動き出したそうです。
お堅いイメージの官僚という職業ですが、BUZZ MAFFを見ていると、生産者のことを想い、知恵を絞り、体を張って、PRをしてくださっていることが伝わります。当初はこんなふざけた動画を投稿したら炎上するのではと、眠れないほど心配したそうですが、投稿動画に否定的なコメントが書かれても、他の視聴者が擁護するコメントを書いてくださるそうです。
社会情勢により、発信方法は変わる
YouTubeチャンネルが話題になった背景には社会環境の変化もあります。総務省の調査*1によると全世代でテレビよりもインターネット利用時間が長くなり、10代〜50代では「いち早く世の中のできごとや動きを知る」ためにインターネットを利用しているのです。かつてはテレビメディアに取り上げられることが話題になる近道でしたが、今はインターネットの影響を無視できません。
「主なソーシャルメディア系サービスの利用率」を見ると、YouTubeの利用率は、ずば抜けて多いことが分かりますし、Instagramの伸びが大きいことに気づかされます。総務省データを見ながら、社会情勢に合った発信をするように心がけています。
食は地方を活性化させる資源
全国を旅している松本さんが訪れる先でいつも感じるのは、日本の食の素晴らしさ。
生産地に近いということは最大の強みですし、地方にしかない食材を生かす料理人もいます。
食は地方を活性化させる資源で、地域の農業と料理人が手を組んだ美味しい料理は、日本の誇るコンテンツであることに開違いありません。
9月、びえい農泊 DX推進協議会と一緒に、美瑛米の生産者を訪ねました。有機農業への米転換を実施する田んぼを見学し、生産者からお話を聞きました。夜、皆さんと一緒に食べた美瑛米のおにぎりは、とても美味しかったです。
写真:美瑛米の生産者を訪ねて
写真:樋口直哉さんが作る美瑛米のおにぎり
コロナ禍で旅行ができなかった時期、日本政策投資銀行と日本交通公社が共同で『コロナが終わったらどこの国に行きたいか?と世界中で調査*2したところ、アジア・欧米のなかでのトップは日本、評価されたのは「食事のおいしさ」でした。
素晴らしい生産者により、美味しい農畜産物が作られ、それを生かす料理人がいるのですから、あとはそれを知ってもらうだけです。デジタル化の波を受けて、情報発信の重要性は年々増していますが、その方向性も変化しています。
これまでは受け身でテレビメディアに取り上げられたことを紹介する生産者が多かったと思いますが、これからは予算が無くても本人の声で発信することが可能な時代になりました。インターネットやSNSで自ら農作業風景や、おいしさを個性と共に発信すれば消費者や観光客に伝わるでしょう。
低い目線で伝える
YouTubeチャンネルの運営を通して松本さんが重要だと感じたのは「低い目線」の徹底です。旅をする前、YouTubeに地名を入れて検索しますが、時々ドローンで空撮した美しい景色の映像がアップされています。否定はしませんが、そこに食や人の魅力は映りづらいもの。それよりも等身大の情報発信のほうが、実際に旅をする人には役に立ちます。
現在、松本さんが担当しているWebマガジンaff(あふ)でも、職員が登場する回は好評です。BUZZ MAFFでも、顔を隠すためにお面を被ったり、着ぐるみに入ったりするよりも、職員が顔出ししている動画のほうが多く再生される傾向がありましたが、たとえ画面越しでも目と目が合うと、見た人も批判的なコメントはしにくいものですし、関係性も生まれるのです。BUZZMAFFで農泊(農山漁村滞在型旅行)の魅力を発信する職員達も、自ら出演し、何気ない会話で地域の方の素敵な人柄や熱い想いを引き出すことを心掛けて制作しているそう。
写真:Webマガジンaff(あふ)2025年1月号「地域の魅力 GI産品」(左:柴崎課長補佐、右:東係員)
写真:「BUZZMAFF」で農泊の魅力を伝える 都市農村交流課 田辺企画官
PRは双方向コミュニケーション
広報は英語で『パブリックリレーションズ(PublicRelations)』=PRの訳語。日本広報学会は『組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能』と定義しています。PRは一方的に発信して終わりではないのです。社会課題の解決には、双方向のコミュニケーションが大切です。発信をしながら、情報を収集し、コミュニケーションをすることが、農林水産業を推進していく際に重要なことです。
農林水産省のデジタル発信は目的をしっかりと伝え、入念な調査と実践。そして上司、同僚、視聴者をも巻き込み目標に向かって仕事を進めていました。
2025年3月13日(木)みどりの食料システムEXPOトップカンファレンスで、より詳しく松本純子さんから、より詳しくお話を伺います。ぜひ会場にお越しください!お待ちしています。
アグロ・イノベーション/みどりの食料システムEXPO
トップカンファレンス
日時:3/13(木) 11:00〜11:40
場所:ビックサイト会議棟102会議室
内容:下記URLをご覧ください
https://agri-food.jma.or.jp/tokyo/attend/seminar.php
来場事前登録<必須>
聴講には来場事前登録が必須です。来場事前登録のURLは招待状に記載されます。
招待状請求はこちら
(複数名で来場される場合は、人数分の招待状をご請求ください。)
https://form.run/@midori2025visit
*1 総務省「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書 概要」
*2 日本政策投資銀行・(公財)日本交通公社「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(第2回新型コロナ影響度特別調査)